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「志通信」メールマガジン 1999年8月 VOL.16
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■あるお店での話
数ヶ月前のことになりますが、知人と「たまには食事でも」という話になり、
知人の勧めで弊社近くの居酒屋で食事をすることになりました。
私はこのお店の存在は知っていたものの、少々古ぼけたような外観に魅力が感じられず、
それまで行ってみようと思ったことはありませんでした。
しかしこの日は久しぶりの情報交換が目的ですから、とりあえず食事が出来ればいいという感覚で暖簾をくぐりました。
ところがどっこい期待以上の料理が出てくるのです。
刺身は活きが良く、揚げ物も外はカリっとした歯応えで中はホクホクとしており、もう大満足です。
また値段もリーズナブルですので、すっかり気に入り、それから何度か利用させていただきました。
そして先日、義理の弟と二人でこのお店に行ったのですが、カウンターに座っている私たちに
ご主人が初めて話し掛けてこられました。
最初は料理について、他愛のない会話をしていたのですが、少し話をしていて分かったことは
このご主人がかなりの難聴であるということでした。
というのは少し話が盛り上がってきた時に、目の前で私が話をしているのに「えっ、今の話聞こえなかったんだけど」
という反応をされるのです。
どうもおかしいなあと思っていたところ、ご本人が「すいません、実は6年前に病気を患ってしまい
耳がほとんど聞こえないんです」と告白されました。
突然のことでびっくりしたのですが、私たちの声はほとんど聞こえておらず、唇の動きと、
あとは私たちの表情や反応から話の内容を類推されていたのです。
私たちは普段自分の声を耳で確かめながら声色や声量を調節しているはずですが、
このご主人は難聴にも関わらず上手に話をされています。
不思議に思ってお尋ねしたところ、もちろん自分の声はほとんど聞こえないこと、
声は聞こえなくても自分の息の吐き具合と相手の反応等によって声量を調整していること、
そしてこの調整ができるのは以前から自分が話好きだったことが幸いしているのではないかと思うとのことでした。
たまたまこの日はお客さんが少なかったこともあり、他にもいろいろと伺ったのですが、
このご主人の病気とは特別に激しいメニエール症候群で、お医者さんからは「この病気は激しいめまいや
耳鳴りを伴うものでそれもどんどん進行します。そして進行が進むと共に残念ながら聴力が失われていきます」
という診断を下されたそうです。
当然のことですが、自分が突然そのような病気になってしまったことを受け入れるまでには
かなりの時間を必要としたそうですが、現実には症状が進み、激しいめまいに襲われ平衡感覚が崩れるために所構わず転んでしまうようになり、この時には病気そのもので命を失うことはないものの、
転ぶ場所やタイミングが悪ければ死んでしまうこともあるかもしれないと、かなり落ち込まれたようです。
その後聴力が失われていくのに伴って、逆にめまいは和らぎ転ぶことも減っていったそうですが、
その間一年位は本当に苦しまれたとのことでした。
■生きる
その後のことは分かりませんが、現在このご主人は、活き活きと働いていらっしゃいます。
何せ直接話をするまでは難聴であることに全く気付かなかった程です。
日曜日がお休みで、それ以外はお昼も定食を提供されており、朝は6時から準備を始め夜床に就くのは
1時位とのことですが、聴力を失った自分がこうやって働けることが大きな喜びだそうです。
そして、「このお店でこれからもお客様に喜ばれる料理を提供していきたいんですよ」とか、「私は障害者だけど、
行政から保護してもらおうなんて、ちっとも考えていません。出来る限り働きつづけたいですね」と、にこやかにお話されます。
そして仕事だけではありません。趣味は山登りだそうです。
平衡感覚に問題があり、身の危険を感じることもあるそうですが、時には高い山にも挑戦されるそうです。
なぜならば(少々照れながらおっしゃっていたのですが)、一度しかない人生を、そして生きることを満喫したいのだそうです。
この日お店にいたのは3時間位だと思いますが、このご主人から「生きる」ことについて大いに学ばせていただきました。
「生きていること」、「生かされていること」、そして新たなご縁にただひたすら感謝しております。
■編集後記
このお店の名前は、ここでは敢えて伏せさせていただきたいと思います。
行ってみたいと思われる方にはもちろんご紹介させていただきますが、二つのお願いがあります。
それは、この通信で私が書いた内容は知らない振りをして普通のお客さんとして料理を楽しんでいただきたいこと、
そしてこのご主人のありのままの姿を見ていただきたいということです。
なぜなら、障害者として見られることを望んではいらっしゃらないからです。
このことを約束していただける方には、是非ご案内させて頂きたいと存じます。
■「残暑お見舞い申し上げます」
温暖化のせいか、年々残暑が厳しくなっているように感じます。
寝苦しい夜が続いておりますが、夏バテ等で体調を崩されることのないようご自愛いただければと存じます。
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